転機は「コロナ」。手放した先に見えた、自分の価値|ブランディングディレクター山藤美樹

インタビュー

編集者としてキャリアをスタートし、現在は企業のブランディング支援を手がける山藤美樹さん。

「コロナ」を転機に、働き方や人間関係を一度すべて手放したからこその今があるといいます。

美樹さんは自分とどう向きあい、何から行動し、壁を乗り越えてきたのか。これまでのプロセスと、これから目指すことについて話を伺いました。

山藤 美樹|Branding Director

企業の経営理念の策定からブランド構築、クリエイティブ制作までを一貫して手がけるブランディングディレクター。大学時代、新聞社の企画に参加。プロの記者とともに取材・記事制作を経験し、自分の言葉が形になって世の中に届く面白さに魅了され、編集の道を志す。卒業後は地方のデザイン事務所にて情報誌の企画・営業・編集を経験。その後上京し、蜷川実花氏が編集長を務める『Mgirl』や、『Quotation fashion issue』の編集・制作に携わる。編集とアートディレクションで培った「本質を引き出し、形にする力」を強みに、現在は福岡を拠点に企業のブランディング支援を行っている。 

言語化から表現まで。一貫して担うブランディング支援

── ブランディングを専門として独立している方は、あまり多くない印象です。この分野では、個人で活動するのは珍しいケースなのでしょうか

個人で企業様のブランディングを行っている人は、私の知る限りでは、ほとんどいないです。というのも、ブランディングには大きく分けて3つのフェーズがあると、私は思っているからです。

1つ目は、経営理念を策定するフェーズ。これはコーチングの領域に近く、言語化を得意とする方が担うことが多いです。次の「ブランド構築」のフェーズになると、ブランディングファームの方が担当することが多い。そして3つ目の「クリエイティブ制作」は、Web業界の人やグラフィックデザイナー、そして広告代理店出身の方が行っているケースが多いです。

これまでの雑誌の編集やアートディレクションの経験を活かし、言語化から表現まで、3つのフェーズを一貫して対応できるのが私の強みになっています。

── 美樹さんはどうやってクライアントさんと出会っているのでしょうか?

「ブランディング」や「福岡 ブランディング」といったキーワード検索で、私のWebサイトを見つけてくれる方もいますし、マーケティング会社から声がかかることもあります。

また、クラウドソーシングで企業の募集内容を確認し、事業承継後の方針に悩んでいたり、リブランディングの必要性を感じている企業に対して、「こういった支援ができます」と提案することもあります。

そもそもブランディングに関する悩みは、表に出にくいものが多いです。というのも、方向性に迷っている状態を、あえて外に出したくない企業が多いからです。だからこそ、こちらから声をかけると、「まさにそういう人を探していました!」と喜んでいただけることが多いです。

みきさんの1日のスケジュール

「コロナ」を転機に、自分と向き合う

──もともとは編集の仕事をされていたとのことですが、ブランディング支援にシフトしたきっかけは何だったのでしょうか。

企業ブランディングを本格的に手がける前は、業務委託で情報誌のリブランディングや、企業のSNS運用、プロモーション映像の制作など、主にクリエイティブ領域の仕事に携わっていました。

当時は、アートディレクションやスタイリングといった単発の依頼をいただくことも増えていて、実務経験を積みながら独立していった、という形です。

──業務委託をしながら、徐々に独立されたのですね。独立時に目標は立てていましたか?

正直、明確なビジョンはありませんでした。いわゆる起業家マインドも当時はあまり意識していなかったです。

──起業家マインドを持ち始めたきっかけは何かあったのでしょうか?

様々な要因が複合していますが、トリガーとなったのはコロナかもしれません。

2018年に独立して、2020年にコロナが広がるまでは、ライティングやアートディレクションなど、クリエイティブ領域の仕事が中心でした。

ただ、コロナ禍で状況が一変し、広告や制作の予算が見直される中で、関わっていた雑誌の休刊や業務委託の減少が続きました。そのときに浮かんだのは、仕事が減る不安よりも、「自分の仕事は社会にどれくらい必要とされているのか」という問いでした。

そこから、表層的な支援ではなく、企業の根本的な課題に踏み込む方向へシフトしていこうと決めました。

そして自分にできることを整理する中で見えてきたのが、「企業のブランディングに深く関わる」という現在の方向性です。そこからは、現状を変えるために、環境を大きく見直しました。

環境、人間関係、すべてを手放した30代前半

── 環境を見直すとは、具体的にどのようなことをしたのでしょうか?

まず、単発の仕事を積極的に取りにいくスタンスを辞め、半年や1年単位で関われるストック型の仕事を増やしました。その為に、当時抱えていたライティングや編集の仕事は手放しました。毎月入ってくる収入源を手放すのは、正直すごく怖かったです。でも、働き方を変えるためにはリソースを空ける必要がありました。

そして、仕事だけでなく、関わる人も変えました。当時親しくしていた人たちとの関係を見直し、すっぱりと連絡を断ちました。周りからは「変わったね」「付き合いが悪くなった」と言われることもありましたが、当時の私には必要な選択でした。

また、企業の方に信頼していただけるよう、装いも見直しました。持っていた洋服を手放し、髪を黒く染め、スーツを着るようにしたんです。今は色物も着るし、髪も金髪ですが(笑)

── これまで築いてきた仕事や人間関係を断ち切る。簡単にできることではないと思います。すごい勇気ですね。

徹底的に手放すことを教えてくれたのは、今のパートナーです。「とにかく手放せ」「断捨離しろ」「まずはマインドを変えるんだ」ということを、熱心に伝えてくれました。彼は私の人生のキーパーソンですね。

自分を変えるために当時読んでいたという書籍『FACTFULNESS』


でも30代前半は本当にきつかったです。洗濯物を干しながら無意識に泣いている、ということもよくありました。

それまでは比較的自分の好きなことを仕事にしてきたので、強い負荷をかけて自分を変えていく経験がありませんでした。だから、コロナを機に、初めて自分と深く向き合うことになり、自分のことが嫌いになるくらい追い込まれていました。

── かなりつらい時期を経験されたのですね……。でも、そうやって自分と向き合い、多くのものを手放した先に、新たな出会いがあったと。

異業種交流会に参加したり、MBAで学ぶ機会を持ったりと、意識的に新しい環境に飛び込みました。その中で、これまで出会うことのなかった企業の経営層や事業を担う方々と接点が生まれていきました。

2026年3月九州大学大学院MBAを卒業。

「できること」と「できないこと」。その線引きが信頼をつくる

── 「企業のブランディングに深く関わっていく」と決めてからは、どのように行動していったのですか?

まずはInstagramのストーリーズで、「こういう仕事をしていく」と発信することから始めました。最初は身近な人たちが見ている程度でしたが、発信を続けるうちに「ブランディングの人」として身内での認知が広がり、何かのタイミングで声をかけていただく機会が増えていきました。

そこからは、Webサイトを作り、自分のブランドを少しずつ形にしていきました。

── 最初からサービス内容は決めていたのですか?

最初からサービスは固めていました。

ベースにしたのは、自分ができること。それを企業ブランディング向けに整理していった結果、「ブランド構築」と「クリエイティブ制作」の2つが当時の主軸でした。

とはいえ、当時は今ほどのクオリティを提供できていたわけではありません。少しずつサービスの精度を高めていき、それに合わせて単価を上げていきました。

── これまでを振り返ってみて、思うようにいかなかった経験はありますか?

失敗談もたくさんありますよ。中でも印象に残っているのが、本来であれば専門のチームや代理店が入るような規模のプロジェクトを、「できます、頑張ります」と引き受けてしまったことです。当然、進める中でひとりでは対応しきれない場面が出てきてしまって。そのとき、クライアントの社長から「山藤さんはなんでもできそうに見える。でも、できないことはちゃんと伝えた方がいいよ」と厳しくも温かい言葉をかけていただきました。

それからは、「ここは価値を出せますが、この領域は他の方に依頼された方がいいと思います」など、「できること」と「できないこと」を正直に伝えるようにしました。その結果、お客様が求めていることと、自分ができることのズレが少なくなり、自分も無理をせず、安心して関係を築けるようになりました。

── 美樹さんは「できること・できないこと」の判断はどのようにされていますか?

自分の領域の中で、「やってみたい」「今後の武器になる」「努力すればできる」と思える範囲は引き受ける。ただ、それを超えるものはどんなに報酬が良くても無理には背負わない。その線引きを持っておくことが大事だと思います。

というのも、できることの範囲を曖昧にしたまま引き受けてしまうと、クライアントに迷惑がかかり、結果的に自分のブランドも崩れてしまうからです。

── 挑戦は大事だけれど、苦手分野で無理に挑戦する必要はない。自分の得意な領域の中で、コンフォートゾーンを広げていく、ということですね。

世界をフィールドに仕事がしたい

── 美樹さんがこれから挑戦したいことを教えてください。

今後は海外の案件にも関わっていきたいです。「第二言語を使いながら、自分の得意分野で価値を発揮できる状態」が私の理想だからです。簡単なことではないですが、だからこそ挑戦したい。そのために、最近は朝の2時間を英語の勉強にあてています。

── 毎朝2時間!美樹さんストイック!最後に、働き方に迷っている方や、これから何か始めたい方に向けて、メッセージをお願いします。

「その人にしかない特性」は必ず存在します。だから、「自分の強みがわからない」という方は、まずはこれまでの経験や今あるスキルを棚卸ししてみることが大切です。そのときに意識してほしいのが、Will(やりたいこと)だけではなく、Can(できること)にも目を向けること。今の自分にできることを知ることで、一歩が踏み出しやすくなります。

また、自分の強みを見つけるうえでおすすめなのが、プロのライターやキャリアコーチなど、第三者にヒアリングしてもらうこと。第三者からの質問に答えるとき、人は少しだけ建前を含めて話します。でも、社会で生きていくうえでは、その「少し整えられた本音」こそが、自分の軸になることもあるからです。

山藤 美樹さんの詳細はこちら

公式Webサイト「LEAN IN

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